LOGIN「………」 「………」 「鈴ちゃん?佳織母さん?」 大丈夫だよ、葵お兄ちゃん。そんな心配そうな顔しないで。私、ちゃんと解ってるから安心してっ! すっくりと立ち上がって…キッチンに行って目的の物を持って、うん、これで良し。「行くわよ、美鈴っ!!」 「おーっ!!」私の手には包丁と大根。ママの手には日本刀(金山さん秘蔵刀)とゴボウ。 準備はオッケーっ! いざ行かんっ!!爺を抹殺しにっ!! 「こらこら。ちょっと待ちなよ。王子も佳織さんも」 「止めないでっ!円っ!」 「そうよっ!クソ爺の血は絶やすべきよっ!」 「そうじゃないって。二人共。暗器と、かく乱する道具も必要だから、ほら、小麦粉と果物ナイフ。それからアタシにも誰か日本刀を」 「えっと、スタンガン…スタンガンは何処だったかな?こっちの鞄にパソコンと一緒にしておいたような…?」」 どんどん武装されて行く私達とそれを見て呆れている葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃん、そして理解出来てない風間くん。 『美鈴。落ち着け。佳織母さんも戻って来い』 「だって、鴇お兄ちゃんっ!!人間として屑な連中だよっ!?」 『知ってる。けどな、その人間的な屑のトップは多分今瀕死状態だろ』 「ふみ?」 瀕死状態?どうして? 私がキョトンとして足を止めると、隣でママがポンッと手を叩いた。 「そうね。良く考えたらあの爺結構な年齢よね。何か出来たとしてもたかが知れてるわ」 いそいそと戻るママに従うように私も席に戻る。 「鈴ちゃん。武器(包丁と大根)は僕が預かっておくね」 没収されちゃった…。しょんぼり。 『確かに年齢を考えると何も出来なさそうですけど…。でも瀕死状態と言えど動いている事は確かですよね。ジャックしたテレビの放送。さっき華菜ちゃんが携帯に動画を送ってくれたので見ましたけど。白鳥元総帥の声、で間違いないですよね?』 それは確かに。優兎くんの言葉に皆頷く。けれど、 「声なんてどうとでも出来るよ」 今のこのご時世。どんな道具だってあるんだから。似た声の人を探す事だってお金さえあれば出来る時代だし。 「ねぇ、誠パパ?助けを求められなかったって言っても、一応文美伯母さんの動きを把握はしてたんでしょ?」 『しているよ。だが…』 「だが?」 『ある日を境に詳細な報告が入らなくなった。原因をずっと探って
大学からの帰り道。実家への道を歩いていた。 親が財閥の総帥と言えど、私には関係ない。誘拐も喧嘩も似たようなもので。そこそこ強かった私は一人道を歩いていても全く問題なかった。 そして、自分以外の人間を守る事も、問題なかった。一人ならね。さしあたって私が守るべきは一人だけ。 「澪」 「何よ、バカ兄」 打てば響く、とはこういう事だろうか? …ちょっと言葉の使い方は違うかもしれないが、だが、澪を呼ぶと必ずこう返ってくる。この呼ばれ方にもともと違和感はなく、あっという間に慣れてしまった。 「前から聞きたかったんだが。君と私は大して年の差はなかったはずだよな?なんで兄なんだ?普通なら婚約したって事で旦那扱いだろう?」 「えー?なんでって言われてもね。バカ兄の顔見たら、こう呼ぶしかない、って思ったんだよね」 「なんだ、それは」 「んー…、ま、いいじゃない。別に迷惑してる人がいる訳でもなし」 「……私が迷惑してるとは考えないのかい?」 「え?バカ兄はもとより計算に入ってないよ」 「酷いな」 にやりと笑う澪に苦笑で返す。 父さんが連れてきた彼女に、既に敵う気がしない。 「しかし、今日の呼び出しは一体なんなのか」 「顔見せって聞いたけど?」 「顔見せって。澪の?父さんが連れてきたのに今更顔見せが必要かい?」 「はて?」 澪が首を傾げる。釣られて私も傾げてしまう。 だが実際、今日何でここに呼び出されたのか、解らない。こういう呼び出しは昔からあるが、その時の用件が真っ当だった事はない。 眉間に皺が寄る。 すると、そこを人差し指でどつかれた。地味に痛い。 「澪?」 「大丈夫よ。何があっても私が守ってあげるからっ!」 ……澪。それは男である私のセリフでは? 「私の婚約者には指一本触れさせないわっ!」 「…うん。本当、頼りになるな。私の婚約者は」 ドヤァッと胸を張る澪を可愛く思いつつ、私は家のドアを開けた。自宅のドアだから何遠慮する事はない。 中へと入って真っ直ぐにリビングへと向かう。念の為に澪は私の後ろにいて貰う。 リビングの前につくと、何やら話し声が聞こえた。一体何をもめているのやら。頼むから巻き込まないで欲しい。 はぁ…。 とっとと終わらせて澪を送り届けよう。 ノックもせずにドアを開けると、そこには両親、兄姉以外に金山さ
「美鈴っ!状況のすり合わせから対策を練るわよっ!」 「らじゃっ!」 ほぼ条件反射で立ち上がり、何故か敬礼をしてしまう。 って言うかね、ママ。「おかえり」くらい言わせてよ。 それから背中にまだ旭達が乗っかってるんだけど…あ、気にならない?そうですかー。遠い目しちゃうぞー。 「とりあえず、状況を整理するわ。ここ最近で起きた、白鳥家関係の不思議な事、どんな些細な事でも良いから報告しなさい」 どんな些細な事でも良い、か。 席についたママにお茶を出して、旭達にもおやつを出しつつ、華菜ちゃんと円の三人で思考を巡らせた。 「私が報告出来るのは、ママも知ってるだろうけど、会社に伯母さん達が乗り込んできた事と」 「あとは、今日だね。美鈴ちゃんに高い服着たおばちゃん三人が文句言いに来たことくらい」 「って言っても、アタシや華菜は何がなんだか分からないままだったけどね」 でも実際言われてる事はママが知っている内容と大差ない。 ただのいちゃもんつけに来た、て感じだった。ママもそれを分かっているんだろう。深く頷いている。 「僕達の方も似たり寄ったりだよ」 「一典とか言う伯父さんが来たんだ。理由は多分僕達を勧誘したかったんだと思う」 「きっちりとお断りしたけどね。ただ…」 「うん。妙な事を言っていたよ。後悔する、とか」 「でもそれはきっと、今のこの状況の事だと思うんだ。確かに普通の金持ちなら後悔しかねない状況だしね」 確かに。この状況を考えると普通なら後悔するかもしれない。 私たちはなんやかんやでこういった状況に慣れつつあるから、そこまで悲観的にはなっていないけれど。 さて、私達は一体何から行動すべきか。…ふむ。 「お嬢様っ!」 「ふみっ!?」 あ、相変わらず突然現れるねっ!真珠さんっ! いつまでたっても慣れないねっ!あ、でも金山さんのは慣れてきてたり…いや、なんでもないです。 「良かった。ご無事でしたか。なるべく急いで戻って来たのですが、遅れてしまい申し訳ありません」 「ううん。大丈夫大丈夫。皆といたし、映像も喧嘩売られただけだから。それよりも、外の様子は?避難状況はどうなってるの?」 「皆順調にシェルターに向かっております。今の所は問題ありません。それよりもお嬢さま。これを。お嬢様宛に届いておりました」 手渡されたのは、A4サイズの
鴇兄さんと父さんが仕事でいなくなって二週間が経過した。 やっと引き継いだ内容全てを理解し、問題なく仕事を回せるようになってきて、棗と上手い事作業分担も出来る様になった。 鈴ちゃんもどうやらやっと落ち着いてきたのか、三人で何とか大学へも通えるようになり、ホッと一息つく。 もうぶっちゃけた話、二人には早く戻って来て欲しい。学校通いながらこの量の仕事は不可能だから。 そう思って鴇兄さんにメールを送ったら、『だったらさっさと卒業してしまえ』と無茶な返事が返ってきた。一体どうしろって言うんだ。 「葵、ここなんだけど」 棗と一緒に大学の休憩スペースで鈴ちゃんの作ってくれたお弁当を食べつつ、今日も仕事の書類と睨めっこ。お弁当箱からサンドイッチを取りだして、一口齧って棗の言う書類を覗き込む。 えーっと…?この数値が…?。………これはメモ取る必要があるな。ペン、ペンっと。ポケットに入れっぱなしだったはず。…うん、あった。これで、メモが…うん? いきなり影が落ちた?一体誰? 顔を上げて横を見ると、そこには黒ぶち眼鏡の赤髪の男が立っていた。 「葵君と棗君、だね?」 見た事ない男。だけど、何故だか見覚えがあるような気がする。 基本的に人の顔見て忘れたりはしない方なんだけど…。誰?こいつ。オーダーで作ったようなスーツを着ているけれど、着こなしている感はまるでない。着られてるって言った方が正しい。 僕達はいつもスーツがバリバリに似合う父さんや鴇兄さんを見ているから尚更そう思うのかもしれない。父さんや鴇兄さん…?あぁ、そうか。父さんに似てるんだ。 僕の気の所為だったらいけないから、隣を見ると棗も僕を見て頷いていた。きっと僕達は互いに同じような表情をしているだろう。不信感。これしかない。大学にしかも父さんに似た男が僕達に会いにくる?一体何の目的で?それに目的があったとしても碌な事じゃない気がする。(……どんな事だとしても、鈴ちゃんは守らないと)僕と棗の心は今一致してる。 警戒心は解かない。けれど、相手から警戒心は取り払って貰おう。 僕はにっこりと微笑みながら、手に持っていた書類を棗に渡して立ち上がった。 「はい。僕が棗でこっちが葵です」 僕達の事を何処まで知っているのか。それを探る意味も込めて僕は名前を逆に告げる。すると黒ぶち眼鏡の男は、ぴくりと一瞬だ
頭を抱えるしかない。 ほんと、ほんっと…やってしまった。そりゃ葵お兄ちゃんも私に口を酸っぱくして注意するよね。うぅ…。 私って酔うと、あーなるんだ。一つ学びました。 「美鈴」 兎に角、私はもう金輪際お酒は飲みません。…って言いたい所なんだけどなぁ…。仕事している人間とお酒って切っても切れない関係にあるからなぁ…。 「こら、美鈴」 どうしたら良いかなぁ…。女だけの飲み会ならどうにかなるかな? あれ?そう言えば、大学に通ってるけどサークルとか飲み会に誘われたことってないよね?うぅ~ん、華菜ちゃんと円が庇ってくれてたりするのかな?だとしたらすっごく迷惑かけてるよねぇ。後でお礼しとかなきゃ。 「美鈴っ」 「ふみっ!?」 突然目の前に鴇お兄ちゃんのドアップっ!? びっくりして椅子から飛びあがる。 「やっとこっち見たな。さっきから呼んでたんだぞ」 「ご、ごめん。ちょっと自分の酒癖について色々考えてたの」 「お前の酒癖?あぁ、成程」 「鴇お兄ちゃん、そこで納得しないでぇ…」 しくしくしく…。 書類をチェックする手を止めたりなんかはしないけれど、心で盛大に泣いておく。 「昨日のは仕方ない。あれに関しては相手側が悪い」 「それは、そうだけど…」 「でだ。美鈴。本題に戻るが」 「本題?あ、そっか。そうだよね。うん、なぁに?鴇お兄ちゃん」 私も鴇お兄ちゃんも仕事中。そんな時に鴇お兄ちゃんが私に話かけるって事は何かしら用があるって事だから。私も真剣に向き合う。 「これを、承認してくれ」 これ?…って何? 渡された書類を見ると、そこには、 「長期休暇届?」 「あぁ。美鈴。俺は暫く家を出る」 「えっ!?な、なんでっ!?」 ガタンッ! 思わず力強く叩いてしまった机の音に自分がビビってしまう。 でも、納得出来ない。仕事を休むのは良いとしても、なんで?どうして?鴇お兄ちゃんが家を出る必要あるの? 「そんな不安そうな顔するな」 頭を撫でてくれる。けど…。 「どこに、行くの…?」 「暫くはホテルでって言ってたな。親父が」 「親父って、誠パパと行くの?」 「あぁ。ハッキリ言って面倒だが、…この間会食した都貴社長がいるだろ?」 あの息子共々気持ちの悪い二人だね。 「そいつらが変な動きをみせたんだ。親父も放っておくと面倒だと言うか
『葵お兄ちゃんっ、ごめんねーっ!』 そう言いながら部屋に飛び込んできた鈴ちゃんの姿が目に焼き付いて離れない。 あれって所謂彼シャツって奴だよね…。 ってダメダメ。忘れなきゃ…。うぅ…無理。可愛かった。滅茶苦茶可愛かったよ、鈴ちゃん。 昨日から僕、理性試されてばっかり…。 クローゼットから出していたシャツを羽織り、しっかりとボタンを閉めた。 …駄目だ。つい思い出しちゃう。…服着たばっかりだけどシャワーでも浴びようかな…。水でも浴びたら少しは…。あぁでも鈴ちゃん、着替えてくるって言ってたっけ?戻ってくるなら下手に移動も出来ないか。 なら、他の事に集中すれば…。そう言えば昨日買った本があったな。それでも読もうか。 鞄の中から本を一冊取り出す。 ヘアアレンジの本だ。確か鈴ちゃんに似合いそうな髪型があったんだよね。えっとどこだっけ…。 昨日の鈴ちゃんの髪型も可愛かったんだけど、あの服装ならこっちも似合うって確か思ってたのが…。…昨日の鈴ちゃんか…。理性を試されたは試されたんだけど…正直言って嬉しかったって気持ちの方が強かったな…。―――昨日の会食。 ガタンッと部屋の中から音がして、僕と棗が慌てて襖を開けて中へ入る。 するとそこには、倒れた鈴ちゃんを抱き起してる鴇兄さんと、ニヤニヤと笑っている都貴社長とその息子の姿があった。 怪し過ぎる。一体鈴ちゃんに何したんだっ。 僕と棗二人で問い質そうと一歩踏み出した。けど視線だけで鴇兄さんに制される。 しかも、鈴ちゃんが急にむくりと起き上がると、鴇兄さんの頬にキスをして、えへへっと笑いながら立ち上がった。 これはもしかして、鈴ちゃん酔っぱらってる? ふらふら~、ふらふら~…ダッシュっ! 「って、えぇっ!?鈴ちゃんっ!?何処に行くのっ!?」 「鈴っ!?」 ど、どうしようっ!?とにかく追わないとっ!! 「…葵、棗。美鈴は任せた」 「う、うんっ」 「分かったっ」 鴇兄さんの目がガンガンに吊り上がってたって事と、都貴社長のあのニヤケ顔。あいつらが鈴ちゃんに酒を飲ませたんだろうって安易に推測出来た。 だったら、この場は鴇兄さんが適任だ。 僕と棗は何合図する事なく、振り向き走りだす。 そして僕は右に、棗は左へと別れて、鈴ちゃんを探した。 廊下を走ってはいけないと言えど、今は緊急事態だから許し
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安に
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でも
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。







